何を歌おうかと考える。
子供が聞いて元気が出る歌、元気が出る歌……。
だが、その思考はラグの低い声によって遮られた。
「ちょっと待て、誰か来る」
「!?」
焦って入り口を振り返る。
こちらに近付いてくる、一人じゃない足音。
――誰?
ラグが私の前に出た。その手はいつでの抜けるように腰のナイフに触れている。
ブゥもラグの頭から飛び立ち、威嚇するように入口を見据えた。
先ほど、ラウトくんと二人だったときは酷く緊張したけれど、今はラグとブゥがいてくれる。
絶対的な安心感があった。
と、外からぼそぼそと小さな話し声が聞えてきた。
「ここにカノンがいるのか?」
「わかりません、でも、ここしか……」
その声にラグが肩の力を抜いた。
私もすぐに立ち上がって入口に向かう。
「セリーン! ブライト君!!」
こちらから顔を出すと、外の二人はとても驚いた顔をした。
そしてすぐにほっとしたように笑ってくれたのだった。
更に今度は私がそれと同じ表情をすることになる。
「ラウト君!!」
そう、ブライト君の傍らには、ラウト君が酷く気落ちした様子で立っていた。
ブライト君に説得されて戻ってきてくれたのだろう。よく見れば二人とも汗だくだ。
「すみませんでした! ラウト様を追いかけるのに夢中で、っ! ラグ、様もいらしてたんですね」
中に入ったブライト君はラグを見つけるなり急に表情を硬くした。
ラグは何も応えず、ただ彼を見下ろしていた。
この二人は……というよりブライト君は、やはりまだラグを信用していないのだろう。
それが見ていてよくわかる。ラグもそれに気付いていないわけがない。
私はそんな二人の視界にわざと入るようにラウト君の前で腰をかがめて笑いかけた。
「良かった! 心配したんだよ」
すると、ラウト君は私の顔をちらりと見上げ「ごめんなさい」と呟いた。
可愛そうなくらいに落ち込んでいる彼に私はゆっくり首を振った。
「ううん、ラウト君の気持ちわかるもん。皆、わかってるよ。……無事で本当に良かった!」
「お前が言うな」
ラグが後ろでぼそっと言うのが聞えた気がしたけれど、
「カノン、顔を怪我しているじゃないか」
というセリーンの少し怒ったような声に私は顔を上げた。
「あ、さっき転んじゃって、でも大したことないよ!」
「しかし、痕が残ったら事だぞ。早く手当てしなくては……。あ〜可愛い顔が台無しじゃないか」
「あ、ありがとう! じゃあライゼちゃんのトコに戻ったら……あ! ライゼちゃんたち、心配してなかった?」
「あ? あぁ――」
聞くと、やはり私とラウト君がいないことに一番に気付いたのはヴィルトさんだったそうだ。
そしてそれを知ったライゼちゃんは酷く取り乱し、すぐさま町に出ようとしたらしい。
それはそうだろう。たった一人の弟が行方不明になったら、家族思いの彼女なら尚更じっとしていられないに決まっている。
だがヴィルトさんとセリーンとでなんとかそれを宥め、セリーンだけがこうしてここに来たということだ。
ラウト君の落ち込みようを見ると、きっと彼もそれを聞いたのだろう。
私も、取り乱したライゼちゃんを想像してもう少し考えて行動すればよかったと、今更ながらに酷く後悔した。
「そっか……でも、どうしてこの町だってわかったの?」
「ブゥの鼻の良さのお蔭だ。それをあの娘が聞いたんだ」
「ぶぅ!」
自分を褒められたのがわかったのか、ブゥは得意げに空中をくるりと旋回した。
と、セリーンが急に半眼になってラグを見据えた。
「まぁ、それを聞いてすぐさまその男が走り出したお蔭で私は道案内を無くしこうして遅れたわけだが」
「え?」
「うるせぇ! おい、カノン! 早く歌うんじゃねーのか!!」
ラグに怒鳴られて私は慌てる。
「そうなの! 私今歌おうとしてたの。彼を、助けたくて」
言ってクラール君に視線を向けると、セリーンの表情が強張りその瞳が真剣な色に変わった。
私は皆にクラール君を歌で、銀のセイレーンの力で元気付けようとしていたことを話した。
すると、ラウト君がぱっと顔を上げた。
「僕も一緒に歌いたい!」
「そう、だね! うん! ラウト君も一緒なら、絶対にクラール君元気が出るよ!!」
そう言うと、やっとラウト君にいつもの笑顔が戻った。
「ブライトも一緒に歌おう!」
「え!? わ、私もですか、えぇと……」
困ったように視線を向けられ、私は笑顔で答えた。
「うん! ブライト君も一緒に歌おう! 昼間と同じ歌だから、覚えてるでしょ?」
「……わ、わかりました。精一杯やらせていただきます」
拳を強く握り言ってくれるブライト君。
ラグとセリーンにはなんとなく頼み辛くて言えなかったけれど、二人とも、私達を止めることはしなかった。
今は、見守っていてくれるだけで心強かった。
そして私達3人はあの歌を、皆で作ったあの歌を歌いはじめた――。
ドはドイッチェのド レはレヴールのレ
ミはみんなのミ ファはファイトのファ
ソは 青い空 ラはライゼ様のラ
シは幸せよ さあ歌いましょう
銀に変わった髪が、いつもよりも強く輝いているような気がした。
セリーンとラグが、目を見開き私を見つめる。
……クラール君、お願い、元気を出して。
ほら、お友達のラウト君も、ブライト君もこんなに頑張って歌ってくれてる。
元気にならなきゃ! そしてクラール君も一緒に歌おうよ!
そう、心で語りかけながら歌う。
そのとき、クラール君の眉が小さく、けれど確かに動いた気がした。
それに皆気が付いたのだろう。ブライト君と、特にラウト君の声が更に大きく楽しげなものになった。
どんなときにも 列をくんで
みんな楽しく ファイトを持って
そらをあおいで ランラ
ランランランランラン
しあわせのうた さあ歌いましょう
一度歌い終えても、まだクラール君は目を開けてくれなかった。でも、
「さっき、クラール目開けそうになったよね! ね!」
ラウト君が顔を高揚させ興奮したように言う。
「はい、確かに! もう一度歌いましょう!」
ブライト君に言われ、私ももう一度最初から歌いだした。
――歌うことに夢中で、周りのことなんて全く気にしていなかった。
ラグとセリーンが何かに気付いて鋭く視線を交えたことも、ラウト君とブライト君がいつの間にか歌うのをやめたことも、私は知らずに……クラール君のことだけを考えて歌っていた。
……クラール君お願い、目を開けて。
あなたがいなくなると、悲しむ人がここにいるよ。
死にたいなんて思わないで、生きて、そして――、
「みんなで歌おう!」
ラウト君のその大きな声で私は漸く気付く。
次の瞬間、歌声がわっと大きくなった。
後ろを振り向いて驚く。――ラウト君とブライト君だけじゃなかった。
そこには、昼間の子供達が半分以上、クラール君に向けて大きな口を開けて歌っていた。
驚く私の顔を見て、みんなが笑顔で応えてくれる。
きっと、みんな歌声に気付いて集まってくれたんだ……!
そう思ったら、喉の奥がキュンと苦しくなって声が震えた。
クラール君の心に届くようにと、私と子供達の大合唱が夜の町に響く。
お願い、届いて……!!
To be continued.
以下あとがきと拍手レスです。
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反転御願いします。
ラウトがいないとわかったときのライゼの取り乱した姿と、同じくカノンがいないとわかったときのラグの取り乱した(?)姿がいつか書きたいです。(←
こういうとき一人称って難しいなぁと思います。この小説を最初から読んでみたい方はコチラへ
この作品のイラストやボイスドラマ等も楽しんでみたい方はコチラへ♪いつも拍手押してくださってありがとうございます^^
これからも頑張ります!!
Agatha様>
体験版プレイしてくださってありがとうございます! 楽しいと言っていただけてとても嬉しいです^^ 完全版に向けてこれからも頑張りますね!!
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