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2018.07.09 (Mon)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第六部 2-1

 その夜。ずっと横になっていたせいかなかなか寝付けず、私は何度もベッドの上で寝返りを打ちながら昼間聞いた幽霊船の話を思い出していた。
(歌声かぁ……エルネストさんも昔はこのレヴールにも歌が溢れてたって言ってたし、だとしたらやっぱりその頃の幽霊……?)
 私は小さく頭を振りながらもう一度寝返りを打った。
(でも、そのエルネストさんだって、もしかしたら……)
 セリーンが昔見たというエルネストさんの絵。もしそれが本当に彼を描いたものだとしたら、もうこの世に存在しない人かもしれないのだ。
 幽霊とは少し違う。でも、すこし正解。……確か、初めて会ったとき彼はそう言っていた。
(やっぱり、エルネストさんは……)
「眠れないのか?」
「!」
 掛けられた声にびっくりしてそちらを見れば、セリーンが心配そうに私を見ていた。
「また気分が悪くなったか?」
「あ、ううん、違うの。ちょっと考え事してて……ごめん、起こしちゃった?」
「いや、私も考え事をしていた」
 その答えにほっとする。
 ――ちなみにラグとブゥはすぐ隣の船室にいる。
 ブゥは流石に周りが海では外出は叶わず、部屋の中をつまらなそうにふわふわ飛んでいると昼間ラグが言っていた。
「昼間の幽霊船のことか?」
「うん。あとエルネストさんのこと」
「あの男か。……エクロッグで何か手掛かりが掴めるといいがな」
 私は頷く。
「セリーンはどんな考え事?」
 訊くと彼女は優しく微笑んだ。
「昔のことだ。エクロッグへ戻るのは久しぶりだからな」
(あ……)
 ――そうだ。今こうして向かっているエクロッグはセリーンの故郷。今は存在しない国。そこで彼女は家族を失ったと話していた。
「セリーンは昔、どんな子だったの?」
 気が付けばそんな質問をしていた。
「私か?」
「うん、昔から強かった?」
 するとセリーンは苦笑しながら首を横に振った。
「いや、普通の娘だったな。どちらかと言えば大人しい方だった。外で遊ぶよりも家の中にいる方が好きだったしな」
「へぇ!」
 意外なセリーンの子供時代を知って私は思わずそう声を上げていた。
 こういうとき、ついアルさんがもしこの場に居たらと思ってしまう。きっと目を輝かせて聞いていたに違いない。
「その頃から花が好きだった?」
 アルさんが別れ際に贈った赤い花を、彼女が押し花のようにして大事にとってあることを私は知っている。
「あぁ。母が好きでな。その影響で覚えたな」
「あ、私のおばあちゃんも花が好きでね、私の名前に花の意味の字を入れてくれたの」
「そうだったのか。カノンという名にはそんな意味があるのだな」
「うん! あー、でも私は花の種類にはあんまり詳しくないかも……」
 そんな、取り留めの無い話をしているときだった。
 ずっと繰り返し耳に入ってくる波音と船体の軋む音に混じってその“音”を聞いた気がして私は咄嗟にドアの方を見やった。
「どうした?」
 私の突然の動きにセリーンの声に緊張が走る。
「今、変な音……ううん、声が聞こえた気がして」
 私は起き上がりながらドアに取り付けられた小窓の向こうを見つめたが真っ暗で何も見えない。
 今聞こえるのは波音と、船体の軋む音と、自分の心臓の音だけだ。でも確かにさっき……。
「声?」
 セリーンの問いに私は頷く。
 とても高い声だった。まるで……。
「女の人の、歌声みたいな」
 声に出したら急にぞっと寒気がして私は慌ててセリーンの方を見た。


 To be continued...



以下反転であとがきです。

♥ More..Open
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2018.05.25 (Fri)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第六部 1-3

「例の幽霊船が?」
「あぁ。ほら、その船から薄気味悪ぃ歌声が聞こえてくるって噂あったろう?」
「あー、あったあった」
「でな、最近どっかだかの港に銀のセイレーンが現れたらしいんだよ」
「え、銀のセイレーンって作り話じゃなかったのかよ」
「俺も聞いたときは驚いたさ。でだ、幽霊船の話を聞くようになったのも最近だろ? だからな、俺は幽霊船の正体はその銀のセイレーンなんじゃないかって考えたわけよ」
「おいおいやめてくれよ、俺今夜見張り番なんだって」
「夜風に紛れて歌声が聞こえてきたりしてな」
「勘弁してくれよ~」

 そんな怯えた声と笑い声とが席を立つ音と共に遠退いて行った。
 小さく息を吐いて緊張を緩めながらふと気が付く。
(そういえば前にもこんなこと……)
「セデのときといい、お前は動揺し過ぎなんだよ」
 ラグの呆れたような視線で思い出した。そうだ、セデの食堂。あの時もこうして銀のセイレーンの噂を背後で聞きながらハラハラしたのだ。
 あの頃に比べたら少しはこういった状況に慣れてはきたけれど。
「仕方ないじゃん。……でも、歌声ってほんとかな」
 身を乗り出して小声で言うとじろっと睨まれてしまった。
「気になるとか言うなよ」
「……」
 気にならないと言えば嘘になるので視線を外しながらゆっくりと体勢を直しスプーンを手に取った。
 幽霊船の正体が銀のセイレーンだという先ほどの人の推理は残念ながら外れているけれど、でも本当に歌声が聞こえてくるのだとしたら……。
「なんだ。カノンは幽霊船に会いたいのか?」
「え? ううん、会いたくないよ!?」
 セリーンに真顔で訊かれてしまい私は焦って首を振った。
 幽霊船なんて絶対にゴメンだ。あと海賊船も。
 このまま何事もなく、嵐に遭うこともなく、なるべく早くサエタ港に着いて欲しい。そう改めて願いながら私はスープに浸って大分柔らかくなったパンを口に入れたのだった。


⇒次話
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2018.05.21 (Mon)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第六部 1-2

 船内の食堂は朝食をとる人たちで賑わっていた。その殆どがこの船の乗組員だ。
 ツェリウス王子が用意してくれたこの船はヴァロール港とサエタ港とを行き来する貨客船で私たちのような乗客よりも乗組員の人数の方が多い。皆揃いの帽子を被り顔を合わせれば笑顔で挨拶してくれる気の良い人たちばかりだ。
  ちなみに私たちが王子と関わりがあると知っているのは船長さんだけ。目立たないよう普通の乗客と同じように接して欲しいと王子の手紙には書いたあったらしい。ただ少しだけ上等な船室を用意してくれた。これがずっと船室で横になっていた私には有難かった。
 と、空いている丸テーブル席に腰かけた私たちに早速声がかかった。
「おう嬢ちゃん、具合はどうだい?」
 真っ黒に日焼けした逞しい身体。見るからに海の男という風貌のおじさんだ。確か一昨日ふらふらとしていた私に船尾の方が揺れが少ないぞと教えてくれた人だ。
「大分良くなりました。ありがとうございます」
 そう笑顔で答えるとおじさんもにかっと笑ってくれた。
「そりゃあ良かった! 俺も船乗りになりたての頃はよく吐いたもんだ。船乗りってのはそうやって強くなる。――ほれ、あいつを見てみろ」
 指さされた先に視線をやると、乗組員の帽子を被ったまだ若そうな男の子が一人カウンター席に突っ伏していた。
「新人なんだがあいつも初日からあの調子で使い物になりゃしねぇ。だがまぁこの航海が終わる頃にはちったぁマシになってるだろう」
 ぴくりとも動かないその人を見ながら大変だなぁと同情しているとおじさんの視線が戻って来た。
「だから嬢ちゃんもどんどん吐いてりゃそのうち強くなるさ」
「あはは……」
 苦笑しているとセリーンがその男を睨みつけた。
「これから食事をとるってときにそういった話は止めてくれないか」
「おっと、綺麗なねーちゃんに怒られちまった。やぁすまんすまん、嬢ちゃん許してくれ」
「い、いえ」
「まぁ残り3、4日の辛抱だ。このまま海が荒れないよう祈っててくれ」
 私がはいと返事をするとおじさんは手を振って仲間たちの座るテーブルヘと戻って行った。
「全くこれだから……」
 セリーンがぶつぶつ文句を言っているとウエイターのお兄さんがやって来てパンとスープを手際よくテーブルに並べていった。頼まずともメニューは決まっているようだ。
 見るからに硬そうなパンだけれどスープに浸して食べればお腹にも優しいだろう。
 私はいただきますと言って早速千切ったパンをスープに少しの間付けてから口に入れようとした、そのときだった。
「銀のセイレーン!?」
「!?」
 耳に入ってきたその大きな声にぎくりとして、スープの中にパンを落としてしまった。
 ラグとセリーンの鋭い視線が一瞬私の背後を見つめたが、すぐに二人とも何事も無かったように食事を再開した。……私のことがバレたわけではなさそうだ。
 だから大丈夫、落ち着けと自分に言い聞かせて、それでも息を潜め私はその会話に耳を傾けた。


 ⇒次話

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