2017年03月 / 02月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫03月

2016.12.31 (Sat)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第五部 32-2

 その帰り道だった。
 一番後ろを歩いていたアルさんが私たちを呼び止めた。
「みんな、ちょっといいか」
「え?」
 その真剣な声音に私たち3人は足を止めて振り向いた。
 でも皆の視線が集中したところでアルさんは「あー」と低い声を出しながら目を伏せた。
(アルさん?)
 なんだからしくなくて首を傾げていると、アルさんは今度こそ思い切るようにして口を開いた。
「実はな、ずっと考えてたんだが」
「ここに残ることに決めたのか?」
 アルさんの後を続けたのはセリーンだった。
「え?」
 アルさんはそんなセリーンを見て目をぱちくりさせた。
 一拍置いて、その言葉の意味を理解した私は目を見開いた。
「え!?」
「セリーン、なんで……」
 アルさんが戸惑うようにセリーンに訊いた。
 するとセリーンは呆れたように息を吐いてから言った。
「昨夜、迷っているふうだったではないか」
「そ、そうだったか?」
 バツが悪そうに頭を掻くアルさん。
 昨夜――私とラグが王子のお母さんに会いに行っている間だろうか。
 いや、いつかなんてどうでもよくて。
「残るって、じゃあアルさんは私たちと一緒に行かないってことですか!?」
 自分でその声の大きさに驚く。
 アルさんは苦笑しながら頷いた。
「うん。……殿下をさ、もう少し見守ってやりたいなぁって思っちまって」
 確かに、首謀者であるフィエールは捕まったものの派閥があったくらいだ。まだ城内に王子の敵は残っているかもしれない。
 それにあのユビルスの術士たちが戻ってくる可能性もゼロではない。
「でも!」
 ――でも、アルさんがいない旅なんて今はもう考えられなくて。
「せめてユビルスからの返答があるまでは護衛を続けようと思ってな。そこまで日数はかからないと思うし、すぐに追いつくからさ!」
 いつもの明るい笑顔に戻ったアルさんを見て、思わずラグの方を振り返る。
 止めて欲しかった。なのに。
「……勝手にしろ」
 溜め息交じりにそう言って、ラグはつまらなそうにくるりと背を向けてしまった。
 初めからラグはアルさんの同行を嫌がっていたけれど。
「でも……」
 ついさっきビアンカとお別れしたばかりで、更にアルさんともお別れだなんて。
 アルさんは優しい。
 短い期間だけれど王子の傍にいて、このまま放っては行けなくなってしまったのだろう。私だって後ろ髪を引かれる思いだ。
 王子はきっと喜ぶに違いない。……でも。
「でも~~っ」
 さっきはどうにか我慢出来た涙が、結局ここで溢れ出てしまった。
 それを見たアルさんが慌てたように声を上ずらせる。
「うわっ、カノンちゃん泣かないで!」
 そう言われても、一度出てしまったものはすぐには止まらなくて――。
 私はいつ元いた世界に帰ってしまうかわからない。いつまでこの世界に居られるかわからない。
 ここで別れたら、もう二度と会えないかもしれない。今まで別れてきた皆と同じように……。
 アルさんの困り切ったような声が自分の嗚咽に混ざって聞こえる。
「俺もさ、カノンちゃんたちと離れるのは辛いぜ? だからすっげぇ悩んだんだけど、殿下からお前がいてくれて心強かったなんて言われちまったら、なんか余計に心配になっちまって。ほら、二人にはラグがいるだろ? でも殿下にはいないから……」
 わかってる。
 十分にわかっているのだ。でも、涙が止まってくれない。
 私がぶんぶんと何度も頷いているとその頭にぽんっと大きな手が乗った。
 ぼやけた視界の中に、こちらを覗き込むアルさんの優しい顔があった。
 彼が囁くような小さな声で言う。
「ラグを頼んだぜ。カノンちゃん」
 私は目を見開く。
 にっこりと笑うアルさん。
 昨夜彼の口から語られたラグの過去を思い出して。
 私はごしごしと涙を拭って顔を上げ、アルさんの顔をまっすぐに見返した。
「はい!」


NEXT
23:05  |  小説【My Favorite Song】  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |