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2018.02.03 (Sat)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第六部 1-1

「カノン、気分はどうだ?」
 キラキラと輝く紺碧の大海原を眺めていた私は背後から掛けられた声に振り向いた。
 赤毛を潮風に靡かせたセリーンが心配そうに首を傾げていて私は笑顔で答える。
「うん、ありがとう。大分慣れたかな。昨日よりは全然マシだよ」
 本当に、一昨日、昨日は最悪だったから。
 ――大型の帆船に乗ってヴァロール港を出てから3日、この世界で初めての船旅にワクワクしたのは最初の10分くらいなものだった。
 この世界の船の揺れること。更には水の腐ったような悪臭もあって出港して一時間もしないうちに私は酔ってしまった。しかし一度陸を離れてしまったからには目的地に到着するまで逃げ場もなくそれからずっと船室で横になっていたのだ。
 そして今朝になって漸く少しは身体が波に慣れてきたのか、こうして立ち上がり甲板で海を眺められるようになった。最初ずっと耳に付いていたギィギィと船体が軋む音も今はそこまで気にならない。
「あの男が術で風を送ればもっと早くにサエタ港に着けるのになぁ。全く融通の利かん男だ」
 ふんと鼻息荒くぼやいたセリーンに私は苦笑する。
 彼女の故郷であるエクロッグ近くのサエタ港まで、順調に行けば7日だと出港時船長さんから言われた。荒野を半月歩くのに比べたら大分楽に思えたが、あとまだ4日もこの船の上かと思うと今は揺れない陸の方が良かったかもしれないなんて考えてしまう。
 でも、だからと言ってたかが船酔いくらいでラグに術を使ってとお願いすることは出来ない。この船には私たち以外にも多くの人が乗っているのだ。セリーンもわかっていて私のためにそんなふうに言ってくれているのだろう。多分。
「ラグは?」
「まだ寝ているんじゃないか?」
「そっか」
 船室へと下りる階段に視線をやってから私はセリーンに言う。
「このまま順調に進むといいね」
「そうだな」
 今のところ天候には恵まれている。今もどこまでも澄んだ青空が広がっていて海風も心地いい。でも海の天気は変わりやすいそうだから油断は出来ない。
 この穏やかな海でさえ酔ってしまっているのにこれで海が荒れたりしたら……考えただけでまた胃がむかむかとしてきた。でも。
「海賊もこのくらい大きな船ならば襲ってはこないだろう」
「……へ?」
 隣に立ったセリーンの言葉に私は思わず間抜けな声を出していた。
「かい、ぞく?」
「ん? そうだ。あぁ、カノンは知らなかったか。この辺りの海には海賊が出るんだ」
 事も無げに言ったセリーンに私はさーっと蒼くなって更に訊く。
「海賊って、あの海賊? 船で襲ってきて金品奪ってく?」
「あぁ、以前に何度か野盗に襲われたことがあるだろう。あれの海版だ」
 なぜだろう。確かに同じ賊ではあるけれど海賊と聞くと何やらとてつもなく恐ろしいものに思えた。陸と違って逃げ場がないからだろうか。
「え、大丈夫なの!?」
「あぁ。この大きさの船ならば普通1stの傭兵も何人か雇っているはずだ。だから海賊もおいそれとは襲ってこない」
「そ、そうなんだ……?」
 いつの間にか力の入っていた肩を落として、それでもやっぱり不安でつい海をぐるりと見渡してしまう。
 と、セリーンがふっと笑った気がした。
「それよりも、面白い話を聞いたぞ」
「面白い話?」
 何やら悪戯っぽく笑って彼女は続けた。
「この辺りの海にな、幽霊船が出るらしい」
「ゆっ、幽霊船!?」
 思わず大きな声が出てしまっていた。
 だって海賊船ってだけでも怖いのに、更に幽霊船!?
 と、丁度そんなときだった。
「なんだ、元気じゃねぇか」
 いきなり背後か掛かった低い声にびくっと肩が飛び上がってしまった。
 急いで振り返るとそこには相変わらず不機嫌そうな彼がいて。
「ラグ。はぁ~、びっくりしたぁ。おはよう」
「治ったのか?」
「あ、うん。大分慣れてきたみたい。ありがとう」
 胃のあたりを摩りながら私は答える。
 するとラグは呆れたように短く息を吐いた。
「ったく、うるせぇのがいないと思ったら、お前もとはな」
「え?」
「なんだ、あのメガネ船酔いするのか?」
 あぁ、アルさんのことかと私は別れてきた彼のことを頭に思い浮かべた。
 強そうに見えて案外そういう弱点があるところが彼らしいなと思わず顔が緩んでしまう。まだ離れてから数日だが王子たちと元気にしているだろうか。
「お前のがまだマシかもな。あいつは船の上だとまず起き上がれない。しかも大袈裟に唸るからとにかく煩い」
「そう、なんだ……」
 でも今船酔いの辛さはとてもよくわかるから可哀想としか思えない。
「ん?」
 と、セリーンが眉を寄せた。
「あの男、まさか船に乗るのが嫌で残ったのではあるまいな?」
「えー、流石にそれはないと思うけど……多分」
 私が苦笑しながら言うとセリーンは「まぁ、奴のことなどどうでもいいがな」とその場を離れた。 
「カノン、何か口に出来そうなら食堂に行ってみるか?」
「あ、……うん、ちょっと食べてみようかな」
 船に乗ってからろくに固形物を口にしていない私はもう一度お腹を摩ってから答えた。今なら少し食べられそうだ。
「ラグも行こう」
「あぁ」
 そうして私たち3人は階段を下りて食堂へと向かった。


 ⇒次話



以下反転であとがきです。
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2018.01.10 (Wed)

第5部改稿、他お知らせ等

ブログの更新はとってもお久しぶりとなってしまいましたm(__)m💦
2018年もどうぞよろしくお願いいたします。

Twitterの方では色々とお知らせしてきたのですが、こちらにも。



年末に第5部を改稿いたしました。
大筋は変わりませんが、目立った変更点としては、

・モブメイドさんとの会話が増えたこと、
・敵人数を増やしたのでアルの戦闘シーンがちょっとだけ長くなったこと、
・最後セリーンとアルとのラブ度をちょっとだけUPしたことです。

あとはちょいちょい未消化だった点をちゃんと消化した感じです。
もしお時間がありましたら読み返してみてくださいね。



海外版MFSカバー

海外版MFSですが、お蔭様でアメリカ・イギリスをはじめ、フランス・ドイツ・イタリア等他にも様々な国の方に読んでいただけているそうでとても光栄で嬉しく思っております。
購入できる場所も続々増えております。

Amazon様
BOOK☆WALKER様
Google Play ストア様

全編英語ではありますが、天満あこさんの挿絵がとても素晴らしいですので英語全然わからない!という私のような方もこの機会に是非…!(英語の勉強にもなるかも?)



MFSのブラウザゲームを少しだけ更新いたしました。

ゲームグラ1 ゲームグラ2 ゲームグラ3

ゲームページへ→http://mfsgame.xxxxxxxx.jp/
※音楽が流れますのでご注意ください。
※PC(Chrome推奨)でプレイしてください。


こちらもまったりペースですが楽しんでいただけたら幸いです。



それと本日、予告していました通り携帯サイトを閉鎖いたしました。
2009年に携帯でもMFSを読めるようにと開設し、それから約8年間ご利用いただきまして本当にありがとうございました!
頂いたご感想などはしっかりと保存させていただきました。今そちらを読み返していたのですがもう本当に嬉しいお言葉ばかりでMFSは愛されているなぁと…感謝の気持ちでいっぱいです。
ゆっくりペースではありますが物語はしっかりと完結させますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

22:54  |  日記  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2017.03.12 (Sun)

My Favorite Song ~銀のセイレーンの歌~ 第五部 32-4

 王子の言っていた通り、城門を抜けたところに馬車が用意されていた。
 大人しそうな2頭の馬の前で御者らしきおじさんが恭しくお辞儀をしている。
(馬というより、ロバ?)
 そう、2頭いるその動物は馬よりロバに近い姿をしていた。
 あのフィエールの相棒であるアレキサンダーの方がどちらかと言えば馬に近かった気がする。
 でもこれならお尻の痛みはあまり気にしなくて良さそうだ。
「みんな、気を付けてな」
 そんな声に振り返るとアルさんが王子たちと並んで私たちに微笑んでいた。
 ちなみにデュックス王子はあの後真っ赤な顏ですぐに宮殿へと戻ってしまったため、見送りはツェリウス王子とクラヴィスさん、そしてアルさんの3人だった。
 ……そう。ここでアルさんともお別れなのだ。
 なんだか未だに実感が湧かない。
「ラグ、二人をちゃんと守るんだぞ」
「……」
 でもラグは何も答えずさっさと一人馬車へと乗り込んでしまった。
 そんな彼に苦笑してからアルさんは軽く咳ばらいをし、私の隣にいるセリーンに熱い眼差しを向けた。
「セリーン。その、抱きしめてもいいか?」
「斬られたいか?」
「ですよねー!」
 バっと天を仰いで、それでもアルさんは諦めなかった。
 今度はいつもの彼らしいへらりとした笑みを浮かべ、右手を差し出した。
「せめて、握手だけでも……ダメか?」
「……」
 するとセリーンは小さく息を吐き、ゆっくりと右手を上げた。
 アルさんは目を見開いて、それから飛びつくようにその手を両手でがっしりと掴んだ。
「俺、これっきりなんて思ってないからな。君は俺の運命の人だから、絶対にまた会いに行く。だから一旦、さよならだ」
(アルさん……?)
 そんな普通の女の子ならどきっとしてしまいそうな台詞に、しかしセリーンが照れるわけもなく。
「ふん、わけのわからないことを。もう離せ」
 アルさんの手をぞんざいに払うと彼女も馬車へと乗り込んだ。
 でもアルさんはとても満足げな顔をしていて、私も自然と笑みがこぼれた。
 と、そんな私にアルさんが小声で言う。
「カノンちゃん、あいつのことよろしくな」
「はい、わかっています。……また、会えますよね」
 私が言うとアルさんは満面の笑みで頷いてくれた。
 一旦、さよなら。――それなら、そんなに寂しくは無い。
 私も皆にぺこりと頭を下げて馬車へと乗り込んだ。
 中は向かい合わせの4人席となっていて、私はセリーンの隣に座った。
 御者のおじさんが扉を閉めてくれて私は窓から顔を覗かせる。
 すると爽やか笑顔のクラヴィスさんと目が合った。
「本当にお世話になりました。皆さんとの旅、とても楽しかったですよ」
「私もです」
「お蔭で殿下も、これほどまでに、見違えるほどに成長いたしました」
「おい、失礼が過ぎるぞお前」
「え? どこがですか。こんなにお褒めしているというのに」
「お前……今の自分の立場をわかっているか? デイヴィスが残ってくれたんだ。お前護衛を外されるかもしれないんだぞ?」
「え、そんなの聞いていませんよ。アルディートさんやっぱり残るのやめにしません?」
「ええぇ?」
 そんな3人のやりとりを見てつい笑ってしまう。
 すると王子もふっと笑ってこちらを見た。
「皆、元気でな。いつかまた会おう」
 その自信にあふれた表情を見て、私は言う。
「ドナを、私の友達をよろしくお願いします」
「!」
 その瞳が大きくなって、それからツェリウス王子は「あぁ」と力強く答えてくれた。


 御者が手綱を取り、ゆっくりと馬車が動きだす。
 私は窓から身を乗り出してアルさんたちが見えなくなるまでずっと手を振っていた。彼らもその間ずっと手を振り返してくれた。
 その姿が完全に見えなくなって、私は息を吐きながら席に着く。
「少し、寂しくなっちゃうね」
 言うと、窓枠に肘を着き外を眺めていたラグが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あいつはお人好しが過ぎるんだ。いつもいつも……」
 そんなラグを見て「お?」と思う。
(もしかして、本当に寂しがってる……?)
 と、そのとき隣から急にフフフという小さな含み笑いが聞こえてきて驚く。
「セリーン?」
「いやスマン。これで少しはあの子に会える機会も増えるかと思うと、ついな」
「増えねぇよ!」
 速攻で怒鳴り声が上がって私は苦笑する。
 ――そうだ。少しの間、元のこの3人と、今はお休み中のブゥとの旅に戻るのだ。
 埃っぽい風が窓から入って来て、私はもう一度宮殿のある方を見上げる。
 するとあの高い塔が緑の合間から見えてきて、私はその白く美しい姿を目に焼き付けた。
 きっとあと何年かすれば、友人もこうしてあの塔を見上げるのだろう。
 そのとき彼女の心が、不安よりも期待と喜びに溢れていますように。そう願いながら、私は馬車の心地良い揺れと聞こえてくるパッカパッカという小気味よいリズムに身を任せた。


 第5部 了
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